キキョウ(桔梗)

 私は昔からキキョウが好きなのだが、その理由を遡ると祖父母が吸っていたきざみ煙草の「ききょう」に辿り着くのだ。その図柄がしっかり記憶され、私がキキョウを経験する始まりになった。これは実物ではなく、文献で何かを知るのに頗る似ている。テキストを通じて知ることと実物を観察して知ることは人のもつ二つの知り方なのだが、私にとってキキョウは前者の最初の対象だったのである。不思議なことにキキョウは寂しそうでありながら、芯のある姿だという印象は今になってもあまり変わらない。大抵の花の印象は年齢と共に変わっていくものだが、キキョウは一向に変わらないのである。これは知り方にその理由がありそうである。テキストは版や写本に異同があるとはいえ、普通は変わらない。だが、観察対象である植物自体は同じ個体がないほどに変化している。だから、実証的な知識は経験の変化に応じて変化するのだが、テキストの内容は変わらず、したがってその知識も不変という訳である。そして、何とこれが科学革命までの知識についての一般的な理解だったのである。だから、科学革命後、科学文献の内容はいずれ不正確か誤りであることがわかるものに変わったのである。
 キキョウは山野の日当たりの良い所に育つ。秋の花のイメージが強いのだが、実際の開花時期は六月中旬の梅雨頃から始まり、夏を通じて初秋の九月頃までである。蕾の状態では花びら同士が風船のようにぴたりとつながっている(画像参照)。そのため「balloon flower」が英名。つぼみが徐々に緑から青紫に変わり、裂けて星形の花を咲かせる。キキョウは東アジアに広く分布する多年草。だが、国内では絶滅危惧種になっている。

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