点と線

 ユークリッド幾何学は点からスタートし、線や面、さらにはそれらから構成される図形が対象になっていた。単に点があるだけでなく、点が無限にあることが不可欠だった。では、点そのものの存在についての幾何学はあるのだろうか。点だけの幾何学について幾つかの例を眺めてみよう。無限の点ではなく、有限の点の幾何学には次のようなものがあり、それらの特徴も幾つか挙げてみよう。

<有限の点の幾何学
• 三つの点からなる幾何学
1. 正確に三つの異なる点が存在する。
2. それぞれ二つの異なる点は正確に一本の線上にある。
3. すべての点が同一の線上にはない。
4. それぞれ二つの異なる線は少なくとも一つの点上にある。
*「正確に三つ」、「二つの異なる」を数字を使わないで表現しようとすれば、どのようにすればよいか。幾何学だけの独自の表現が求められる。

上の前提から、次の定理が導かれる。
(1)それぞれ二つの異なる線は正確に一つの点上にある。
(2)正確に三本の線がある。

• 四つの点からなる幾何学
1. 正確に四つの点が存在する。
2. それぞれ二つの異なる点はそれら両方を含む正確に一本の線をもつ。
3. それぞれの線は正確に二つの点上にある。

これらの前提から、次の命題が得られる。
(1)4つの点をもつ幾何学は正確に6つの線をもつ。
(2)この幾何学のそれぞれの点はその点上に正確に三本の線をもつ。

• 5つの点からなる幾何学
1. 正確に5つの点がある。
2. それぞれ二つの異なる点はそれら両方の点上の線をもつ。
3. それぞれの線は正確に二つの点をもつ。

これらの前提から、次の命題が得られる。
(1)5つの点の幾何学は正確に10本の線をもつ。
(2)この幾何学の各点はその上に正確に4つの線をもつ。

・4本の線からなる幾何学を考えてみよう。
1. 正確に4本の線が存在する。
2. 度の二つの異なる線も両方の線上に正確に一つの点をもつ。
3. 各点は正確に二本の線上にある。

これら命題から、次の命題が証明できる。
(1)正確に6つの点がある。
(2)各線はその上に正確に3つの点をもつ。

*これらの有限の幾何学の空間とユークリッド幾何学の空間がどのように異なるか、それぞれまとめてほしい。また、証明できると述べられている命題を自ら証明して、論証を実践的に会得してほしい。

Fanoの幾何学(1892)
1. 少なくとも一本の線がある。
2. どの線もその線上に正確に3つの点をもつ。
3. すべての点が同一の線上にあるわけではない。
4. 二つの異なる点に対して、その二点上を通る正確に一本の線がある。
5. それぞれ二本の線は両方の線上に少なくとも一つの点をもつ。

これら命題から次の命題が証明できる。
(2) それぞれ二つの異なる線は両方の線上に正確に一つの点をもつ。
(2)正確に7つの点と7本の線がある。

点の発見から点を使った表現へ:存在論から幾何学
 点が何個かからなる幾何学的世界では点の存在、線の存在が問題であり、それらは純粋な対象として見つめられるが、それらを使って何かを表現するものではない。古典的な世界観は私たちの心や意識を支配するに十分な美しさと完全さをもつ世界観であるが、それを生み出す源がユークリッド的な幾何学だった。時空はその幾何学によって表現されてきた。
 古典的な世界観は私たちの生活世界を支える最も重要な世界観であり、その一部、その部分が生活する経験的な世界であると考えられている。確定的で、古典物理学的な世界が常に基本にあり、その上に私たちの経験する日常の世界が存在するというのが私たちの暗黙の常識であった。科学とは異なる世界が真の世界であるという考えは既に科学革命以後徐々に消失し、科学こそが私たちの世界経験を支える基本的な知識となってきた。
 生活や経験を支えるのが物理的な世界であり、その世界は古典的な世界観によって支えられている。その古典的な世界はユークリッド的な幾何学によって表現される。それを解体して、ユークリッド的な幾何学がどのような構成になっているか、何を前提にしているかを明らかにしなければ、古典的世界の構造はわからない。
 解析幾何学幾何学的な要素と数的な要素が総合されている。その総合が表現手段としての数学、特に幾何学の特徴を際立たせることになる。また、幾何学的な推論、論証を支える古典論理は古典的な世界観の骨格となってきた。何が存在するかを明らかにする存在論は本来幾何学と区別されないものだった。どのように存在するか、どのように変化するかを表現するための幾何学と、何が存在するかを指示する存在論は本来は一つのものだった筈である。
 有限の点、線の幾何学は何かを表現するには向かない。点そのもの、線そのものの幾何学で、点と線の間には関係がない。つまり、線は点からできてはいない。点と線は別の存在である。線の上には点はあるが、点の集まりが線であるとは限らない。ユークリッド幾何学は点や線の幾何学であるだけでなく、点や線で表現できる図形的な対象と関係の幾何学でもあり、その方が遥かに有用なのである。